日本のアルミニウム産業ーアルミニウム製錬業の興隆と衰退
三和 元著
A5判 300頁(本体6000円) ISBN 978-4-903866-31-4 三重大学出版会 2015.3.10刊
世界第3位だった日本のアルミニウム製錬業がわずか十年余の期間で衰退した激変の産業史・経営史。
<本書の目次>
まえがき
■序章 課題と方法
1.課題
2.研究方法
■第1章 アルミニウム産業概論
第1節 世界のアルミニウム産業
第2節 日本のアルミニウム産業の特質
■第2章 日本におけるアルミニウム産業の展開
第1節 戦前期から戦後復興期まで
第2節 高度成長と製錬業への新規参入
■第3章 日本アルミニウム製錬業の衰退
第1節 外部環境の変化
第2節 アルミニウム製錬からの撤退
■第4章 アルミニウム産業政策の評価
第1節 政府のアルミニウム産業政策
第2節 アルミニウム製錬政策の効果
第3節 アルミ製錬撤退の影響
■第5章 海外製錬の展開 -国際分業体制-
第1節 資源の開発輸入
第2節 アルミニウム地金の開発輸入
第3節 ナショナルプロジェクト
第4節 開発輸入の役割
■終章 アルミニウム産業の将来展望
1.製品論の観点
2.資源論の観点
参考文献・資料
あとがき
索引
梗概 『日本のアルミニウム産業ーアルミニウム製錬業の隆盛と衰退』
『日本のアルミニウム産業』A5判 上製 300頁 三和 元著
当初、世界第3位だった日本のアルミニウム製錬業がわずか10年余の期間で衰退した激変の産業史・経営
史。1970年代の国際経済の大きな変化、ドルショックとオイルショックによって、生産コストに占める電力費
の割合が大きい地金製錬業は、国際競争力を失って経営危機に陥り、政府の救済政策を受けたものの、1980
年代に製錬事業から撤退する企業が相次ぎ、1988年以降は、日本軽金属蒲原工場を残すのみとなった。
一国の産業構成のなかから近代産業が実質的に消失する事例としては、日本においても、綿紡績業や石炭鉱業
を挙げることができるが、産業の最盛期から衰退にいたる期間の短さという点では、アルミニウム製錬業は極
めて特異な事例といってよかろう。石炭産業を見れば、1959年の石炭鉱業審議会答申以来約40年にわたって
構造調整政策が進められ、生産量は5100万トンから310万トンに削減された。アルミニウム製錬業では、1977
年の地金生産能力年産164万トン(史上最高)から、わずか11年後の1988年には年産3.5万トンにまで激減
したのである。
今後、アルミニウム地金権益の確保等の開発輸入、更には上流のボーキサイト・アルミナ権益の確保を実施
する場合には、我が国アルミニウム企業と地金権益を拡大している商社との連携の強化等民-民ベースの取組
を基本としつつ、国際協力銀行JBICなど政府系金融機関の活用、ODAによる現地の電力・交通インフラ整備
との連携等による支援も実施していく必要があると、今後の方向を提示している。
見所
製錬業は衰退したが、アルミニウム加工業は、輸入新地金と再生地金を素材として、国内需要の急増
とともに着実に成長を続けた。先進諸国のなかで、国内に製錬業を持たずに国際分業の形で加工業が発展して
いるのは、日本のみであり、ドイツでさえも地金消費量の約20%は国内で製錬している(2010年現在)。日本
のアルミニウム加工業が、新地金を安定的に入手できる要因としては、海外製錬業に投融資することを通じて
新地金を確保する開発輸入の役割が大きい。製鉄業や製銅業にくらべるとやや遅れるが、アルミニウム製錬業
と総合商社は、1960年代からボーキサイト、1970年代から新地金の開発輸入に積極的に取り組んだ。1976
年にはインドネシアのアサハン・プロジェクト、1978年にはブラジルのアマゾン・プロジェクトが、政府資金
を投入した国家プロジェクトとして開始された。
原料となるボーキサイトは賦存量が大きいので資源論的には供給不足のおそれは小さいが、現行の製錬技術
では、電力原単位が大きいからエネルギー資源の限界に影響されて新地金の供給価格が上昇し、供給が不安定
化する事態が生じるかもしれない。安定供給の軸となっている開発輸入についても、国家プロジェクトとして
展開されたアサハン・プロジェクトでは、契約期限満了後には、資源ナショナリズム的政策を選択したインド
ネシア政府によって、日本側が望んだ契約の延長が拒否されるという事態が起こっている。
アルミニウム産業の成長のためには、新しい資源政策が必要な時代に入っているといえよう。日本のアルミニ
ウム製錬が終焉を迎えた時点で、アルミニウム産業の歴史を振り返りながら、21世紀の産業としての問題点を
検討することが、本書の目的である。
書評