要旨:編集部
本書では、気候変動問題を通して日本の環境外交の変遷を分析する。検証する対象は二つある。
一つは、日本が米国の京都議定書離脱と産業界の猛反対を振り切って、京都議定書の国内批准に
踏み切った背景、もう一つは、国連気候変動交渉に置ける日本の立場が、対米協調からダイナミ
ックに変遷を遂げてきた背景である。これらの問いは、2013年以降の「ポスト京都」の制度
構築を議論する上で重要である。
本書は六章構成で、小泉政権以降の政権変動期における日本の気候変動政策を、国際政治及び国
内政治の状況から分析していく。第一章「危うい締約交渉」では、米国の京都議定書離脱によっ
て分裂した米欧間に日本が入り、議定書の正式発効のため両者を取り持った仲介者としての役割
について議論する。また、第二章「京都議定書批准のための国内調整」と第三章「小泉内閣によ
る国内締結」では、交渉に対する立場の不一致が国内の省庁間にあり、これが気候変動交渉にお
ける日本の立場に大きな影響を及ぼした点について考察する。
第四章から第六章は、2013年以降の国際協力を規定する「ポスト京都」交渉における日本の
政策の立場とその変化について述べる。第四章「対米協調への回帰」では、京都議定書採択以前
の米国寄りの交渉の基本スタンスに、近年日本が回帰している状況について明らかにする。また、
第五章「新たな政権変動期の気候政策」では、小泉政権以降の自民党政権、その後政権交代で与
党となった民主党政権、東日本大震災と福島原発事故の発生、そして短命内閣の継続という政権
変動が、日本の気候変動政策にもたらした不確実性を検証する。第六章「『ポスト京都』の国際
交渉」では、こうした国内要因が如何に国際交渉において日本の立場に与えるか、その影響を分
析し、COPにおける気候変動交渉の進捗状況から国際及び国内政治の先行きを展望する。
国際交渉の過程から見た日本は、対米協調が中心であるにもかかわらず、米欧間の仲介者という
立場から完全に脱却したわけではない。「ポスト京都」の国際制度構築に向けた日本環境外交は、
今後も国際政治のみならず国内政治の変動にも大きく影響を受けて進捗すると見られる。
|