作者からのコメント:。
涼山彝族の言語と文字(PR文)
「イゾク」「イゴ」と聞いたら、先ず、「遺族」「囲碁」と言う漢字を思い浮かべる事だろう。
それが中国の四川、雲南、貴州、広西に約750万人が居住する少数民族の呼称であり、彼らの話
す言語の名まえであるとはだれも思わないだろう。或いは中国に詳しい人なら,「ああ、あの奴
隷制が最近まで続いていた民族か.」くらいの反応を示すことだろう。それほど彝族とその言語
は我々日本人,いや、東部沿海部に居住し、経済発展を謳歌している都市部の裕福な中国人でさ
えも、なじみのない民族であり、言語である。
本書は、単なる彝語の教科書ではなく、この彝族の言語と文字について、それがどのようなも
ので,それらを育んだ文化的、社会的、歴史的或いは宗教的背景とはいかなるものなのか。そし
て、漢族という圧倒的なマジョリティーの中にあって,彼らがどのように独自の言語・文字を発
展させてきたのかという問題を取り上げながら,彝族の言語と文字そして文化を紹介しようとす
るものである。
本書は本論の後に,「涼山彝語会話600句」(李民、馬明著四川民族出版社1981)の翻訳を付録
としてた。四川省涼山彝族自治州を中心とする彝語北部方言に対し、819文字の音節文字からな
る「規範彝文」が整理され,国務院で彝族の文字として批准されるのが1980年であるから、この
冊子は規範彝文が正式に国家によって認証されてから間もなくの出版ということになる.この冊
子は彝族に向けた新しい文字の普及と現地の漢族幹部を対象に編まれた会話集であるだけに、
日本人読者には馴染みのない固有名詞などについて,より詳しい註釈を付したかったが、諸般の
事情でそれが叶わなかった。しかし,本書全体を通して、彝族の文字文化とそれが歴史の中でど
のような変革をたどったのか。また,彝語と彝文字の一端を紹介することができたと思う。言葉
とその背景にある彼らの伝統と現在をより網羅的に紹介できる一冊を再度お届けできたらと思う。
要旨 氏名:編集部
国内最初の彝語・文字研究
本書は、中国四川省涼山彝族自治州に暮らす彝族の言語・文字について論じた研究書である。
涼山彝族は1956年、中国政府によって「民主改革」が実行されるまで、長い間奴隷制社会の
状態に置かれていたとされる。また。彝族には、一説には漢字に匹敵するともいわれる、長
い歴史をもった独自の文字が存在する。この文字は伝統宗教の巫師である「ピモ」によって
受け継がれ、祈祷や祭祀に使用されていた。それは、人類が文字を獲得した時の、人と文字
のありようを現代にまで残しているかのようであるとも言われている。1949年、中華人民共
和国の成立によって、涼山彝族の伝統的な社会と文字文化にも、激しい社会主義改造の波が
押し寄せてきた。本書では、涼山彝族の伝統的な社会の一端を紹介し、特に1949年以降、涼
山彝族が、言語文字改革の影響をどのように受け、民族の伝統文字を守り、そして発展させ
て来たのかを論じた。また、巻末には『涼山彝語会話六百句』(李民、馬明著四川民族出版
社)を翻訳した。涼山彝語(彝語北部方言)の言語と文字を、その社会的、文化的背景とと
もに紹介した、我が国初の研究書であり、現代彝語の入門書でもある。
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書評
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