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驚きの猿文化
上島 亮 著
B5, 270頁 定価2,520円 ISBN978-4-944068-78-4
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医師である著者が、自ら歩き収集して、世界の猿文化遺産を展望する。写真440枚が掲載されている。
はじめに
第一章 日本の猿文化めぐり
第一節 庚申信仰における猿
第二節 民間の猿文化
第二章 世界の猿文化めぐり
第一節 中華文化圏の猿
第二節 インド文化圏の猿
第三節 インドシナ文化圏の猿
第四節 中南米文化圏の猿
第五節 ヨーロッパ文化圏の猿
第六節 エジプト文化圏の猿
おわりに
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書評
猿に関する「世界文化遺産」
三重大学出版会 濱森太郎
一冊の図書を勧める時に編集者は否応なく、この図書が売れるかという疑問と向かい合うことになる。版本が普及する17世紀から数えて約400年間、図書は主として「頒布」されるものだった。関東大震災(1923年)を契機に図書の量産、量販が始まり、商業出版が軌道に乗ると、書肆が図書を売るという「常識」が普及した。
したがって、一人の著者が広いマーケットに立ち向かい、孤軍奮闘して数十冊の著書を書き続ける事態は出版史上の例外中の例外に当たる。学術書の大部分は一生に一冊、学芸に関わる者が在職の記念に読者の手許に届けることを目的として制作された。そしてそういう図書を学術書の原点だと言うなら、私にも紹介したい図書がある。
この12月20日に三重大学出版会から刊行される『驚きの猿文化』(上島亮著)は、旅客機のない時代なら一生を5回やり直さなければ到達出来ないほどの旅程を踏破し、写真を撮り、資料を収集して書かれた猿に関する「世界文化遺産」の記録である。周口店の北京原人(当地では猿人)、敦煌・アジャンタ・ボロヴドールにある石窟寺院の壁画の猿、南米ナスカの地上絵の猿、インカの猿型什器、マヤの猿の書記官、エジプトの「王家の谷」を護る猿神トトなど、猿文化世界の大御所から三重県内の小さな猿の石像や村祭りの「くくり猿」まで、国内外の猿が細大漏らさず網羅されている。収録された図版は440点だが、それは7000枚のネガの中から選ばれた440点だ。これを手に取った者なら誰でもこれが世界の「猿文化遺産」だと言うだろう。
出版の原点に触れる原稿がある時には、編集作業もまだまだ面白いぞと思える図書を作る事が出来る。「編集者がすすめる一冊」という電子部会の企画には最適の一冊だと思い、本書を推薦する事にした。
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