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阿閉義一前編集長への追悼文 山下 護
弔 辞
阿閉さん、身罷られて早3日になるのですね。しかし幽明両界の距離に戸惑いを感じるのは一人私だけでしょうか。もう相見ることは叶わないと承知しているものの、研究室の廊下で「何も食べられんものの、牛乳がうまいんだよ」という声が今にも聞こえてきそうです。
あなたは、私の勘定に間違いがなければ三重大学に22有余年勤務されました。その間、全学の諸委員、共通教育で、また工学部でとあまたのお仕事を成し遂げられ、三重大学出版会の理事も含めその功績に枚挙のいとまがありません。ですが、ここであえて一つだけ挙げさせていただきたいのは物理工学科におけるAO入試です。あなたの提案で実施に移されたこの入試制度は内外で高い評価を受けております。それに加えて、この入試実施を通じて教育のあり方が幾度となく議論され、学科全体が良く纏まってきているのです。
研究面ではチャーム粒子が関与する弱い相互作用と素粒子模型や、ニュートリノ相互作用とゲージ模型等をはじめ多くの業績をあげておられます。しかし、最近のご勉強ぶりからすると、あるいはまだやり残したこともあることでしょう。ところで基礎科学は自らの内的必然性によって発展するものです。一方、昨今における経済性という暴君は容赦なく基礎科学に襲いかかっております。それにもかかわらず、この困難中からでさえも新たな発展の芽生えが期待できるという、歴史の教えに従った確信に誰が疑義を挟みえましょうか。この点において研究の支えとなる教室の発展に、あなたのお力がまだまだ必要であったという無念の気持ちが募るのも事実であります。
そうは言え、阿閉さん、あなたはもう十分立派な仕事をなさった。意義深い人生を送られた。強い意志力で人生を切り開いて来られたことに敬意を表します。彼岸では杯を傾けながら研究を楽しんで下さい。そちらではあるいは10次元は普通のことであって取り扱い易いかもしれません。古詩に古希の誉れに並べて言うには、いずくにおいても飲み屋はあるとのこと、我々もいずれはそちらに参ります。教室メンバーがそろった砌にはどうか良い酒を出す店にご案内下さい。このお願いをもって物理工学科を代表しての弔辞と致します。今日、旧暦では弥生の三日、花の便りを思い出の一つとしてまずは静かにお休み下さい、どうぞ安らかに。
2006年3月31日
物理工学科学科長
山下 護
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